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渋谷簡易裁判所 昭和36年(ハ)368号 判決 1962年12月14日

東京産業信用金庫

理由

原告本人尋問の結果、証人斎藤安治の証言及び検証の結果を綜合すると、本件係争建物が所在するという場所は、東京急行電鉄東横線目黒駅より南に約二百米、目黒区上目黒三丁目一八三一番地に所在する高架電鉄線下高架構造物の一こまの部分であること右高架線で構造物は概ね五間を以つて一こまとし区切り毎に、鉄筋コンクリート造頑丈な高架脚によつて支えられた地上約二間にある電鉄路線の床があつて屋根をなしているので、右高架線で構造物の一こまのみを抽出してこれを見れば屋根と柱だけの鉄筋造り建物のようであること、原告は右高架線下構造物の東西をトタン板を以つて塞ぎ内部に棚などを設けてこれを倉庫としていたこと、昭和三十二年十月被告会社に内部を改造することを許してこれを工場として使用する為め賃貸したこと、被告はこれを賃借直後原告が施設した出入口のトタン板を取外して板張りとし硝子戸の出入口を設け、内部に木材を以つて三畳、四畳半室を作り又ガス、水道、排水施設をなすなど改造をなしたこと、右被告会社のなした造作施設は出入口を除き其後順次撤去されて現存していないことなどが認められる。

右認定の事実によつてこれを見ると、原告が高架線下構造物にした出入口を塞ぐためのトタン板の設備内部にした棚の施設は勿論、被告会社が高架線下に造つた部屋も、これを以つて独立した建物とはいえないのであつて、これら施設と高架線下構造物と一体をなして初めて建物ということができるものと解する。そうであるとすると右建物は高架線構造物所有者の所有であつて原告の所有ではない。

なお原告の主張による別紙物件目録記載の建物は高架線下構造物をも含めた施設一体をいうのか又高架線下構造物を除いた施設のみをいうのかは必ずしも判然としないが、そのいづれであつても原告の所有であるとは認めることができないから原告に所有権があることの確認請求は理由がない。そして被告らは別紙物件目録の建物は被告会社が高架線構造物下に施設したもののみを指称するものであることは明らかであるところ、前に認定の通り被告会社の施設物のみを以つてこれを建物とはいえないので、これを独立の建物として登記することは違法であるのみならず、被告会社の右施設物は高架線構造物に添付する結果その所有者の所有に帰し被告会社の所有ではないので、前記被告会社の高架線構造物内にした施設物を別紙物件目録記載の建物だとして、又それを被告会社が所有するものとしてなした所有権保存登記は無効である。そして右保存登記が無効である以上被告金庫のための根抵当権設定登記もまた存在を許されない。しかして右登記の存在は本件高架線下構造物を含めてその所有権が被告会社に存し且つこれが現存するの外観を呈し、その結果高架線構造物の所有者の所有権行使を妨害すること明らかであるところ、原告本人尋問の結果原告が本件高架線下構造物の賃借権者であることが認められ、又本件口頭弁論の全趣旨により右高架線下構造物が賃貸人である東京急行株式会社の所有であることが認められるので、原告が賃借権保全のため所有者を代位して被告会社の所有権保存登記及び被告金庫の根抵当権設定登記の抹消を求める原告の請求は理由がある。

よつて登記抹消手続請求を認容し、所有権確認請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十二条を適用して主文の通り判決する。

物件目録

東京都目黒区上目黒三丁目一、八二一番地

家屋番号同町一、八三一番

一、高架線下木造二階建作業場一棟

建坪 十二坪五合

二階 四坪八合七勺

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